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津軽じょんがら節はなぜカッコいいのか

音階・周波数・波形からの音楽的考察

津軽じょんがら節を聴くと、なぜあれほど「カッコいい」と感じるのでしょうか。和楽器でありながら、ロックやジャズにも通じる力強さがある――その理由を、音階・周波数・音色(波形)という観点から、できる範囲で掘り下げてみます。和楽器の世界では理屈を突き詰めることはあまりありませんが、「なぜカッコよく聞こえるのか」を考えるのは、私のささやかな挑戦です。

1. マイナースケールはカッコいい

日本音階には2種類の音階がありますが、まずはその一つ、じょんがら節の音階の話です。

その音階は、1オクターブに5つの音を使った音階です。仮に初めの音をCとすると、C・E♭・G・A・B♭ の5音になります。これは「Cマイナーペンタトニックスケール」(ドの音から始まる、暗い印象の5音だけの音階)で、ロックやジャズが大好きな音階なのです(スケール=音階のこと)。

5音だけの音階(ペンタトニックスケール)の話は後にして、まずはマイナー(短音階)の印象について考えます。

このマイナースケールを使って激しく演奏すると、人はなぜかカッコ良く感じます。暗い印象のマイナースケールも、速いノリのテンポでリズミカルに演奏すると、力強さをもったグッとくる音階になるのです。ロック、ブルース、スペインのフラメンコなど、どちらかというと魂を込めるような音楽に、同様の印象があります。

日本の民謡にもこの音階の曲がたくさんありますが、「ノリのよいテンポとリズムで演奏する」点と「魂を込める」点が、異なるポイントです。

このマイナースケールを突き詰めて発展させたジャズ演奏家がいます。どんな曲でもマイナースケールに変換し(マイナーコンバージョンといいます)、魔法のようにカッコよく聞かせてしまう――パット・マルティーノです。彼があみだした演奏方法は、一言でいうと「すべてのコード(和音)に対応する音階をマイナースケールに入れ替える」という考え方です。

参考動画:Pat Martino & John Scofield - “Sunny”(最初にソロを弾くギタリストがパット・マルティーノ)

やはりマイナー音階はカッコいい。私(勝邦)おすすめの、このマイナースケールを感じ取ってみてください。

2. それは日本音階(四七抜き音階)なのか?

じょんがら節が日本音階であることは間違いないと思います。定説では、日本音階はいわゆる「四七抜き音階」だと言われます。ドレミファソラシドの4番目(ファ)と7番目(シ)が無い、という意味です。昔、日本ではドレミの音階を「ヒフミヨイムナ(ヒ)」と言っていた時代があり、まさに「ヨナ抜き」なわけです。

四七抜き音階をド(C)から並べると、C・D・F・G・A となります。これは津軽の民謡では「あいや節」、そのほか演歌に多用される音階です。

音階の説明を分かりやすく言うと、同じような音を使っても、どこから始めるかで「次の音までの間隔の順番」が異なり、音階の持つ印象が変わります。つまり四七抜き音階は――(ここで1音=半音2個、1音半=半音3個)

  • C〔1音〕D〔1音半〕F〔1音〕G〔1音〕A〔1音半〕C
  • ② これをAから始めると:A〔1音半〕C〔1音〕D〔1音半〕F〔1音〕G〔1音〕A
    (同じ音階をCを基音にすると:C〔1音半〕E♭〔1音〕F〔1音半〕G〔1音〕A〔1音〕B♭)

音の間隔の配列が違うことが分かります。じょんがら節の音階は②の方で、これには「陽旋法」「民謡旋法」「田舎節」などの名前が付いています。

では、同じ日本音階を使う音楽なのに、なぜ津軽三味線はカッコいいと感じるのか。その理由を探るべく、日本音階に関する従来の音楽理論を、あらためて勉強してみました。

参考動画:音楽の正体 #11 日本音楽とは何か (1/3)

この番組の日本音楽の説明では、次のような趣旨でした。

  1. 日本音階は四七抜き音階である
  2. 半音がないため導音として機能せず、調性がはっきりしない(そのため当初は基音すらなかった)
  3. 不安定で「なよなよ」した雰囲気で、激しい曲調は合わず、ゆったりとした特徴を持つ

(導音とは、基音に隣接する半音で、西洋音楽の理論を構成する骨格となる重要な音です。)

ところが、これは多くの点で津軽三味線とは異なるのです。半音がないのはその通りですが、初期の日本音階には無かった基音が、のちには存在しました。津軽三味線は歴史的に比較的新しい音楽なので、基音があったと考えられます。

それ以上に、太棹三味線という楽器の構造上、基音(三味線では一の糸)が低音で大きな音量、しかもサワリの付いた音色で強く主張します。曲の最後の音も、必ず一の糸を強く鳴らして基音を主張します。

以上から言うと、津軽三味線は、いわゆる日本音楽の四七抜き音階の特徴(なよなよ・ゆったり)よりも、むしろ基音がはっきりして激しい曲調である点で、民族音楽系のマイナースケールと捉えた方がしっくりくるのではないでしょうか。重要なのは、基音が絶大な主張をする楽器であること、次の音が短3度でしかもペンタトニックスケールであること。これはロックやジャズ、ブルース、スペイン音楽などに似た音階の使い方になると思います。

今回の結論としては、津軽三味線は「日本音階ではあるが、日本音階らしい特徴を持たない特殊な音楽」だということになると思います。

3. 洋楽のペンタトニックスケールとして見ると?

今度は、じょんがら節を「西洋的なペンタトニックスケール」として見るとどうか、という視点で考えます。

洋楽の解説では、ペンタトニックスケールは「コード進行の中でどんなときに使えるか」「他の楽器と合うか」という観点から語られます。たとえば「CメジャーのコードにはCメジャーペンタまたはAmペンタが同じ構成音だから使える」「CメジャーにCmペンタはブルーノートとして使用可能」などなど。しかし、これはコードを基本とした音楽理論としての解釈です。

一般的な定義をまとめると――

  • ペンタトニックスケールとは5音の音階で、東洋に昔からある。西洋の7音音階に対比する音階
  • 世界中にいろいろある
  • ロック・ジャズのアドリブで多用される
  • 調性がはっきりしないから便利に使える(違和感のある音が出ない)
  • 使い方でカッコ良くも悪くもなる

ですが、和楽器目線で見るとしっくりこない点があります。それは「和音(コード)から考えるかどうか」という点です。

津軽三味線の場合、音階の基音を一の糸として、一つのコード感はありますが、それがコード進行という形をとらず、単一和音として終始します。ですから「コード」というより「音階の音としてある」という方がふさわしい気がします。この点で、やはり日本音階だと言えます。

つまり、和楽器から見るペンタトニックスケールは、コード(和音)で考えると違和感がある。この点で西洋音楽的ペンタトニックスケールではない。しかし、日本古来の音階というよりは、洋楽のマイナースケールに近い――というのが一番あてはまる気がします。

参考動画:マイナーペンタトニックスケールの練習ギターフレーズ③(初心者のためのエレキ・アコギレッスン)

どうですか、これって「じょんがら節」だと思いませんか? カッコよく聞こえる理由の一つは、西洋音階的な表現を内包しているからではないでしょうか。

構成音が同じだけでなく、表現上も似ていることにおそらく気付いて、寺内タケシが昔に作った曲がこれです。

参考動画:寺内タケシとブルージーンズ ♪津軽じょんから節

ところで、そもそも音階とは何でしょうか? ――「三味線奏者はそんなこと考えなくていい、考えたって上手くなるわけじゃない、理屈で飯が食えるわけでもない、習ったことを初心忘れずでひたすら練習あるのみ」って? わたしゃ、そんなのヤです。どこまでも考えますよ、ええ。

音階とは数学的なもので、一定間隔の異なる周波数の音を、一音ずつ時間軸上に階段状に発音したものです。この周波数の計算には、難しい数式を使います。こんなものが、どうして人間の感情に訴えるのでしょうか。次の章で考えてみます。

4. ちょっと脱線、音楽は数学的構造をしている

ここまでは音階から考えました。少し脱線しますが、そもそも音階とは何か。物理的・数学的に言うと、異なる周波数の複数の音を、一音ずつ時間軸上に階段状に変化させ発音したものです。

現代の音楽は、基準点となるラ(A/ピアノの中央ドの上のラ)を440Hzとし、そこから計算式で各音の周波数が決まります。これは全く数学の世界です。

参考:平均律(Wikipedia)平均律について

ここで重要なのは、周波数が倍になると1オクターブ高く、1/2になると1オクターブ低い音になるということ。そこを基準に、オクターブの間を12等分したのが音階の最小単位、半音です。半音上の音の周波数を表す式が、これです。

(1つ上の半音の周波数)=(元の周波数)× 21/12

21/12(2の12乗根)を12回かけると、ちょうど2倍。つまり「12回かけると2倍になる」という意味です。このオクターブの中の半音12個が、現在の音楽の基本構成単位です。

これは洋楽だけの話ではありません。和楽器とて、調子笛から音を取って演奏し、オクターブの概念が存在する以上、無縁ではないのです。その証拠に、現代の三味線が音を取る調子笛には半音が12個あり、平均律でできています。

さらに三味線では、「10のツボ(勘所)」は、上駒から下駒の振動している弦の長さのちょうど中間点にあり、音程は開放弦の1オクターブ高い音になります。この中点であることを知らない三味線奏者は意外と多いのですが、これは「1オクターブ高い音は周波数が倍」という法則と一致しています。

この「1秒間に何回振動するか」という基本構造としての音の配列・組み合わせが、数学的に言う音楽(音階)です。そして和楽器も、その基本構造の影響を強く受けています。

……なんかねぇ、味気ないなあ。そう思います。周波数の組み合わせだけでは、音楽にはなっても、良い音楽にはならないのではないか。特に和楽器は、音の周波数という基本構造を使うのはもちろんですが、それよりむしろ「波の形で音色を表現する」方を重要視するのが、和楽器音楽だと思います。

和楽器の世界では、ここまで周波数や音階を突き詰めることはないし、必要もないでしょう。ですが、音楽の基礎として、調子笛やチューナーの音の基準として、三味線のツボ(勘所)の位置の知識として、知っていて損はないと思います。

話がまとまったところで、問題提起、しかも大問題です。それは「日本音階は平均律ではない」という事実です。つまり、日本音楽は平均律では伝統的表現にならない、ということを意味します。

つまり厳密に言うと、ピアノで弾いちゃダメなのです。ギターもダメです。和の音楽として調律がとれていないことになるからです。

洋楽器で大丈夫なのは、ウッドベース、チェロ、バイオリン、トロンボーンなど、中間の音程を自由に出せる作音楽器を、邦楽の周波数感覚のある人が演奏した場合だけです。この話は今日のテーマとはまた別で、どんどんややこしくなっていきます。普段、演奏していて感じることですが、陰旋法・都節系の音階に特に顕著で、じょんがら節には影響が少ない――ここは勉強不足なので、またいずれ。

そして次の話題は、波の数(周波数)ではなく、波の形です。

(注:基準点を442Hzと変化させ、すべての音の周波数を少し上げる使い方をする場合があり、これは少し派手な印象になるそうです。)

5. 周波数から波形(音色)へ

ここまでは、音の周波数構造の視点から語ってきました。しかし、こう言ってはナンですが――上達のためにと理論をここまで読んだ方には、とてもお気の毒な話で申し訳ありませんが――実際の演奏では、全く役に立たないのですよ。

構造的なことは、現実の演奏では当たり前の範疇に入ってしまい、津軽三味線で生まれ育った演奏家であれば、何の躊躇もなく身に付けている感覚だからです。つまり自然発生的に、カッコいいマイナーペンタトニックスケールを演奏してしまうのです。だからここまで話したことは、「なぜカッコよく聞こえるか」の答えにはなりますが、「上達のための方法論」にはなりません。

でも音楽理論とは、多かれ少なかれ後からのこじつけ・理論づけです。それで分析・理解することで西洋音楽は体系を築いていった歴史があり、それと同じだと思います。和楽器(特に民謡系)は情緒優先で理論後回しで来たので、理論構築にはなじまないのですが、それにあえて挑んでいるのが、私の無謀な挑戦です。

ようやく数学的な周波数(音階・和音)の部分を終え、次へ移ります。題名にもあるように、周波数から波形(音色)の話です。

津軽三味線の音の波形は、爆弾のように、いきなり大きく立ち上がる形をしています。

一の糸開放弦・0のツボ・単音の波形
一の糸開放弦・0のツボ・単音の波形
一の糸開放弦・バチ付け最初の音2つの波形
一の糸開放弦・バチ付け最初の音2つの波形

ここから何が分かるか。三味線の音はインパクトが強く、いきなり立ち上がっているのが分かります。その直前にある小さな振幅が、おそらくバチが糸に触れた瞬間の音。その後、一気に立ち上がって最大音量になり、すぐに減衰する。余韻はあまり残らず、早く消える傾向にあります。

波形から大雑把に分かるのはこんなことですが、人間の耳はもっと優れていて、この波形の違いから感情的なニュアンスを聞き分ける能力があると思われます。

人間の耳と脳は、無数の人の中から知っている人の声を聞き分けられます。それは鼓膜に伝わる波形を情報として解析し、一瞬で判断する優れた波形分析能力があるからです。楽器(和楽器)の表現に置き換えても、人間の音楽鑑賞能力は、同じく大変な波形分析能力を持っていると考えられます。

音を介して感情を伝える能力(波形)とは、「精神表現と音響伝達のコミュニケーション」かと思います。人間は感情をどう音に乗せて伝えるのか。ここに和楽器の音楽表現のポイントがあります。和楽器の音色には雑音成分が多いですが、この雑音成分も含めて音色の表現とします。和楽器では雑音が雑音ではなく、重要な音色なのです。複雑な音色をあえて出して表現しているのです。

言い換えると、和楽器は音の構造物として演奏するのではなく、音色の中に表現世界を持っていると思われます。洋楽器では、音色は楽器職人の分野として語られ、演奏家が音色を作り出し精神性を表現するという考えは少ないと思われます。そしてこれは理論として語れない、感覚の話となります。

この音色の中の優れた表現は、経験的に伝えられるものです。楽器職人・演奏家・演奏表現が、意識的または無意識的に、師匠から弟子へ、名人から次の世代へと伝えていくもの。そして自分の素質や工夫が生み出すものと考えられます。習い、伝え、精進することで、今まで聞こえなかった音が聞こえ、出せなかった音色が出せ、さらに安定して、人前で出せるようになる。そのレベルは人それぞれですが、ここに大きなウェイトを置いているのが和楽器です。これらの音色は波形として音の波の中に刻まれ、聞く人の耳に精神伝達情報として伝えられるのです。

津軽三味線のバチ付けの最初の一音、これだけで伝わるものがあるのはなぜか。最初の二つの音だけで出てくる魅力ある音色は何か。このあたりに、経験と、そこに込める人の精神の力を感じるのですが、いかがでしょうか。そうすると、津軽三味線をただ弾いているだけではダメで、たった一つの音でも良い音を出せなければならない。出せるか出せないかが重大で、それは楽器の持つ魅力そのものに直結してしまいます。

前に作音楽器という言葉が出てきました。洋楽での定義は「弦楽器・管楽器など、鳴らすだけでは正確な音が出ない楽器のこと」で、音程の正確さを重要視しています。和楽器に限らず、たとえばバイオリンでも、技術の伴わない演奏はとても聞けたものではない――この点はとても似ています。日本の楽器に、雑音成分も含め和の精神を込めた波形となって出てくる音。それが、津軽三味線の「カッコいい」と感じる音色なのだと思います。

そしてこの音色と、もう一つ経験的に身に付ける感覚が、テンポ感とリズム感です。津軽三味線のテンポとリズムには特徴があります。じょんがら節に限らず、任意の弾み・ズレ・揺らぎがあるのです。機械的な安定ではなく、少しの変化をしながら、全体として安定感のある曲としてまとまっている。津軽三味線のソロをメトロノームに合わせて演奏するのはとても難しく感じますが、それは「一定に演奏することが、かえって不自然に感じる」ということでもあります。

津軽じょんがら節のテンポとリズムについては、またいずれ考えたいと思います。

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