津軽三味線の上達には、ただ弾く時間を増やすだけでなく「何をどう意識するか」が大きく関わります。ここでは、上達の土台となる「聴く・見る」の二つの習慣と、実際に良い音を出すための指の使い方を、私の修行時代の経験も交えて解説します。
Part 1-1. 聴く ―― 耳を鍛える
「耳を鍛えろ」は高橋竹山さんの言葉でもありますが、これは楽器全般にいえる上達法です。
名人の演奏の良い音・悪い音を聴き分ける、音の細部を聴き分ける、音の重なりから聴き分ける、周囲の雑音の中から聴き分ける――とにかく聴いて聴いて聴きまくる。これが三味線上達の重要な部分だと感じています。覚える課題曲を最低100回リピートして聴き、それからコピーの作業に入るのが、私の修行時代の日課でした。苦しいと感じたことはなく、好きな楽器の音を聴くので楽しくてしょうがない、という時代でした。
そのあとは「本当に聴けたかどうか」の検証をすれば、はっきりと結果が出ます。私が行った検証法はコピーと録音です。名人の演奏とまったく同じニュアンスで演奏を録音できるか、という課題に取り組みました。
弾きながら自分の音を聴くのは難しいものです。だから録音し、客観的に名人の音と比較するのです。
そうすると、まずは聴き取れなければ弾けない、弾いても録音できない、録音してもニュアンスが表現できない、という「できないずくし」の状態になります。その中で足掻きながら、少しずつ自分の方法論を見つけ、コピーできるように考えていきます。
この繰り返しが、津軽三味線に限らず楽器上達の近道だと、私は確信しています。
Part 1-2. 見る ―― いつ・どこを・どう見るか
耳を鍛えながら、通常はお稽古で先生から習うわけですが、上達のために見るべきポイントがあります。それは手の使い方です。お稽古以外にも、名人のライブやコンサートで近くから見られるときはチャンスです。
というのは、手の動きのどんな些細なことにも必ず意味があるからです。たとえば「糸を指で押さえる」という一つの動作だけでも、これだけのポイントを挙げられます。
- 糸を押さえる指の強さ
- 人差し指・中指・薬指の動きの意味
- 押さえる棹の面からの角度
- 揺らすときのツボとの位置
- 揺らす幅
- 運指(指の連動の仕方)
- 指を押さえるときのバチとのタイミング
- 一つの音(ツボ)から次の音へ移動するときの、指が離れるタイミング
- 爪を使う場合と使わない場合の意味
- 爪を使う場所の範囲
- 爪で押さえるときの角度
- 押しバチのときの指の使い方
ここでは個々の説明はしませんが、上記はすべて上手な人の手先を見れば分かることです。これらすべてに意味があり、上級者は自然とその動きを体得しています。ですから指の動きと音の関係を分析すると、そこから重要な何かが見えてきます。
私はお稽古のとき、教室に着いてから帰るまで、先生が三味線を弾いている間はそれこそ穴が開くほど手の動きを見ていました。斜め・横・後ろなどの角度から覗き見られるときは、特にチャンスとばかりにガン見していたものです。
先生の手を詳細に見ていると、いい音がする瞬間に特徴的な動きを発見できるようになります。そうしたら、その音と手の動きをイメージとして頭に入れ、後で家で同じ音が出るまで練習します。
お稽古で練習曲を繰り返し弾いて覚えるのは初歩の段階。上達のためのお稽古のポイントは「穴が開くほど見て、手の動きの意味を深く分析する」ことです。これによって、津軽三味線の演奏技術を体得できるようになります。
Part 2-1. 良い音のコツ① 指の「離し方」
良い音を出すための大事なポイント、それは指の使い方です。まずは指の離し方から。
三味線を弾くには左手で糸を押さえますが、押さえるタイミングはバチで弾く瞬間の直前です。ここにもコツがありますが、今回の話題は「指を離すタイミング」です。
音は糸の振動で鳴っているので、開放弦(0のツボ)以外は、糸を押さえてバチで弾いた時点から、指が離れるまでの時間が音として出ていることになります。
ところが実際には、ほとんどの人が「弾くポイント」しか意識していません。譜面を見ながら演奏する場合は特に、音を出すタイミングと音程を読みながら弾くだけで、離すタイミングまでは意識できていないのです。
ではどうすればいいか。指の離れるタイミングは音の長さそのものですから、考え方としては「音と音が切れずに繋がって聞こえるように弾く」のが基本となります。
その前提として、弾いている音が切れているか繋がっているかを、自分の耳で聞き取らなければなりません。自分の演奏をリアルタイムで客観的に聞くのはとても難しいので、練習としては、音の繋がりが切れている演奏ときちんと繋がっている演奏を対比させ、どう聞こえるかを繰り返し耳と脳に覚え込ませること。そうして、自分の演奏中に耳で判断できるようにすることが必要です。
Part 2-2. 良い音のコツ② 必要最低限の押さえる圧力
次は糸の押さえ方です。押さえ方にはいくつかの視点がありますが、その一つ――指で押さえるときの強さはどの程度がよいのでしょうか。
なぜこれが問題かといえば、音色に直結するからです。糸を緩く押さえると音がボケてしまいます。強く押さえればいい音がしますが、強すぎると疲れて長く弾けず、指を痛める原因にもなります。
では、どの程度の圧力が最低限必要なのか。その「必要最低限の圧力ポイント」をどう把握すればよいのでしょうか。これは論理的に説明できるかは別として、上級者なら必ず体得していて、その圧力で押さえながら演奏しているはずです。
演奏家は分かっている。それを分かりやすく伝えるのが教室の役目です。私はここを説明するとき、まず糸を軽く押さえながら連続してバチで音を出し続けます。次に、押さえている指の圧力を少しずつ上げ、次第に強くしていきます。すると、最初に緩く押さえていたときは、指先の糸に触れているところから糸の振動でシビれるような感じがあったのが、押さえる力を強くしていったある一点から、シビれを感じなくなる瞬間が訪れます。
もうお分かりかと思いますが、この「シビれ」とは、指が糸の振動を減衰させてしまっていた状態のこと。シビれを感じなくなった瞬間は、糸の振動がすべて音になった瞬間なのです。
したがって、糸を押さえる必要最低限の圧力は、その一点と考えて間違いないと思います。これはすぐに体感できますから、ぜひ試してみてください。
Part 2-3. 良い音のコツ③ 人差し指の「糸道(いとみち)」
①②で糸を押さえる指の使い方を扱いましたが、最後は人差し指の爪の話です。
糸を押さえるとき、人差し指は爪を立てて押さえます。すると爪の真ん中に、糸の幅の溝ができます。この溝のことを糸道と言います。
この溝は、弾いているうちに自然とできるというよりは、弾く前にあらかじめヤスリなどで少し掘って、糸の収まりどころを決めておいた方がよいものです。というのも、一度ついた溝に繰り返し糸が入ってだんだん深くなっていくため、最初に位置を決めておかないと、変なところについた溝がどんどん深くなってしまうからです。
そこで、爪の真ん中に小さく溝を作り、三味線の棹の上で二の糸をその溝に入れ、数回ギギギとこすると、ちょうどいい糸道ができます。
次にその使い方です。三の糸(特に高音部)は音が濁ってしまうので爪で押さえますが、三の糸を人差し指で弾くときや、二の糸・一の糸を押さえるときは、指を指紋のある方に少し倒して、爪が当たらないようにします。このように指を使い分けると、いくら弾いても爪がすり減らなくなります。
- 爪を使ったことがない方は、使えるように
- 爪を使っているが、すり減ってポロポロになってしまう方は、人差し指を倒すタイミングを
それぞれ練習すると良いと思います。