津軽三味線は、糸や糸巻き、皮といった部分のちょっとした扱い方で、音色も寿命も大きく変わります。ここでは、糸の選び方・張り方から、糸巻きのトラブル対処、三つ折での収納や梅雨どきの保管まで、現場で役立つメンテナンスのコツをまとめます。
Part 1-1. 糸の種類と選び方
津軽三味線の糸は3本です。上の太いほうから順に、一の糸・二の糸・三の糸と呼びます。
昔はすべて絹糸でした。あの高橋竹山さんも、全部絹の糸を使っていたそうです。今は、特に一番細い三の糸はナイロンかテトロンの糸を使います。二の糸は絹またはテトロン糸、一の糸はほとんど絹です。
いろいろな糸が各メーカーから出ていて、それぞれ音や耐久性が違います。自分の楽器の状態と組み合わせて、一番良い音が出て、許容範囲の耐久性があるものを選びます。
以前使っていたセット
- 一の糸 …(丸三)の中口
- 二の糸 …(フジ)の絹 15-2
- 三の糸 …(フジ)のナイロン 15-2(金色の紙で止めてあるもの)
どうしても二の糸が切れやすいのですが、化学繊維系で納得できる音のものがなく、絹を使っていました。一日持たないので、糸切れに気を使って大変でした。
いろいろ試して、今使っているセット
- 一の糸 …(丸三)の中口
- 二の糸 …(丸三)の放射線照射テトロン 15-2
- 三の糸 …(ちくぶ)の 13-3
今は二の糸にかなり良いものがあり、上記に落ち着いています。三の(ちくぶ)の糸は、テトロンの二の糸と合わせるとバランスが良く、気に入っています。
糸選びも音色を第一に考えて、楽器・皮・駒・バチ・調弦などの組み合わせの中で、自分の求める音色をイメージして最適なものを選ぶことになります。
Part 1-2. 糸の張り方のコツ(三の糸の下の秘密)
糸を張るときに、ちょっとしたコツがあります。三本の糸は均等の間隔で張るのですが、少し一の糸側に寄せて張るのです。言い換えると、三の糸の下に棹が余るように張ります。
これは昔、名人の三味線を近くで見ていて気が付いたことです。その後、ほかの名人もやっていました。ぜひ、身近に有名なプロ奏者がいたら、この部分をよく見て確かめてみてください。こんなことも教えてくれないのが芸人・職人の世界。「見て覚えろ」ということですね。
名人はなぜこのように張るのか。 自分なりの解釈ですが、三の糸の下の棹の余裕部分が重要なのです。左手の指で糸を“ハジく”奏法では、人差し指で糸を押さえ、薬指で糸を下に強く引っ張ってハジくように放します。一の糸と二の糸は、下に引っ張るときに薬指で引っ張るための棹がありますが、三の糸の下には棹がありません。そのため、強く押さえて下方向に糸を引っ張る「引っ張りシロ」として余裕が欲しい――そこで一の糸側に寄せるようになったのだと思われます。
ここでもポイントは音色です。三の糸をハジく音色が、普通に張ると音がボケるところ、この方法ではクッキリとしたメリハリのある音色になります。
このように張るには、上ゴマは自由に幅を取れますが、胴上の駒の糸間隔は溝を切る段階で決まってしまうので、通常より少し狭くつける必要があります。9.5mm〜11mmの間が、この張り方の適正幅です。この幅で、駒から上ゴマまで平行に張ります。間隔は好みによります。9.5mmはある名人の駒の溝幅ですが、かなり狭く慣れるのが大変です。通常は10.5mmくらいが弾きやすく音色も良い、バランスの取れた幅だと思います。あとは好みで決めてください。
Part 2-1. 新品の三味線で壊れやすい場所(一の糸の糸巻き)
新しい三味線、特にお稽古用の三味線には、新しいがゆえに壊れやすい場所があります。慣れない初心者が買ってすぐ壊してしまうことがあるので要注意です。それは一の糸の糸巻きです。
糸巻きは、先に向かってテーパー状(先細り)になった円柱を、細い方と太い方の2か所の穴にキツく差し込み、その摩擦で糸を張ったまま固定します。使っているうちに糸巻きはだんだんすり減って細くなり、穴の奥へと入り込んで、出ている部分が短くなっていきます。
そのため新品のうちは、あまり入り込まないように、差し込みの部分が小さく入って止まるようにしてあります。言い換えると、あまり深く刺さっていないのです。
そこで慣れない方が、よく分からないまま、糸巻きの先の方がまったく刺さっていない状態で使ってしまうことがあります。しかも糸巻きがすり減っていないので、よく刺さっていなくてもそこそこ止まってしまうのです。さらに、普通に張る位置に糸があると、一の糸は太いために、先端が穴に刺さっていないことが見えません。
この状態で調弦してどんどん糸を張るとどうなるか。一番太い一の糸は張力が強いので、糸巻きの止まっていない先端部分を強く引っ張り、太いほうの穴の角を支点としたテコの力で糸方向に引っ張ります。糸巻きが耐えられず、折れてしまうのです。
買ったばかりの糸巻きは特にごく浅くしか差し込まれておらず、先端が穴に入っているかどうかの感触が分かりにくいので注意が必要です。特に安いお稽古用の楽器は、このあたりの細工が雑で、手の感触だけでは分かりにくくできています。先端部分をよく確認し、隙間なく差し込まれているか確かめてください。せっかく買ったばかりの楽器を壊さないよう、ぜひ気を付けてください。
Part 2-2. 糸巻きが滑って止まらない時の調整法
糸巻きが滑って止まらないこと、ありますよね。
そんなとき糸巻きを外してみると、金具とのあたりの部分がツルツルに光っています。「ここをザラザラにすればいいのか」と、紙ヤスリでつまむように挟んでグルグル回して削りたくなりますが、これをやると、よけいに止まらなくなってしまいます。
糸巻きの削り方は、棒ヤスリで鉛筆を削るような方向で削るのがコツです。両方のあたりを均等に削り、少し削ったら差し込んで回す。するとまた光る部分ができるので、そこを削る――こんな感じで進めます。
ただし、上等な楽器はやはり三味線屋さんに頼みましょう。
Part 3-1. 三つ折にバラすときの糸の処理(糸がもつれない)
三つ折ケースにしまうとき、糸のしまい方を上手にしておかないと、後で組み立てるときに糸がこんがらがって面倒なことになります。竿の継手を抜いているときに糸がグチャグチャにならないよう、外した音緒と糸を次のように処理しておきます。
三つ折にするときは糸を緩めて、音緒ごと取り外します。手順は次のとおりです。
- 糸を緩め、音緒ごと糸を取り外す
- 外した糸を、糸巻きに巻きつけてまとめる
- 最後に音緒を――りんどう(胴の下に突き出た、金色の金具付きの棒)にかける3本の紐のうち、一番下の紐だけを、サワリのネジ部分に引っ掛けると、うまく止まる
これで竿を抜く作業が糸を気にせずでき、後で出したときも絡まりません。家元や先輩から教わった方法です。
Part 3-2. 梅雨どきの皮対策と乾燥剤
津軽三味線の皮は犬の皮なので破れやすく、一年で一番破れるのが梅雨の時期です。この季節に三味線屋さんに行くと、破れて皮張り待ちの胴が山積みになっていたりします。湿気の後の乾燥で張力が増して破けるそうで、湿度の異常に高い時期は要注意です。
そこで対策は、収納時に入れる乾燥剤です。三味線用乾燥剤はいろいろ試しましたが、今使っているのがこれで、一番だと思います。しかも安い。
三味線用もいろいろ出ていて性能はいいと思いますが、「もう使えない」という状況が一番分かるのがこれです。メーカーのページには責任回避のため「楽器は用途外なので使わないように」と書いてありますが、私は20年使っていて、適当にゼリー化したら交換すれば問題ありません。ただし、あくまで自己責任でご使用ください。
以前、モイスレガートという楽器用調湿材の制作会社の方が、「三味線用に販売したいので使って意見を聞かせてほしい」と教室を訪ねて来たことがあります。とても高い製品で、バイオリンやその他管楽器など洋楽器用として使われているとのこと。おそらく効果はあるのでしょう。
私が使ってみて申し上げた感想は、「入れたときに湿気を取ってくれて、調湿機能が優れているのは分かりますが、いつまで効果が続いて、いつ効果がなくなるのかはどうやって分かるのですか?」というもの。返事は「使用期限で取り換えてください」でした。
おそらく三味線は、楽器の中で一番湿気に気を遣う楽器です。使用状況で持ちは変わるはずで、今が取り換え時なのかがはっきり分からないものは、三味線奏者は怖くて使えないと思います、と答えました。その証拠に、この手の製品の使用期限は「8か月〜14か月」などと幅があります。この不確定な期間をどう解釈すればいいのか。早めに変えればいいのでしょうが、まだ使えるならもったいないと、つい長くなりがちです。
他の楽器では、湿気は保管状況の良し悪しを左右する問題ですが、三味線は湿気が楽器破損・演奏不能に直結します。コンサート現場に行って破けた、では仕事になりません。その点ドライペットはゼリー状に変化するので、目で取り換え時が確認でき、一番信頼できると思っています。
乾燥し過ぎを気にされる方には、こちらが良いと思います。湿度40%をキープしてくれます。次第に硬くなりますが、やはり変え時は分かりにくいです。
いろいろな乾燥剤がありますが、とにかく何とか湿気で皮を破らずに、この梅雨を乗り切りたいですね。