大久保三味線教室 講師
澤田 邦楽(さわだ くにがく)
Interview
澤田 邦楽 インタビュー
「津軽三味線は大人が追求できる最高の趣味」。
ブルース愛あふれる講師が教える上達のコツ
東京都新宿区の大久保津軽三味線教室で講師を務める澤田邦楽先生。20代の頃にブルースギターやハーモニカにのめり込み、そこから自身のルーツである日本の楽器・津軽三味線の世界へ。
ブルースと三味線に共通する「グルーヴ感」や、バンド経験者ならではの独自の音楽観、そして大人になってから長く楽器を続ける秘訣など、異色の経歴を持つ先生ならではのユニークで奥深いお話を伺いました。
ブルースギターから和楽器へ。「青森のグルーヴ」との出会い
津軽三味線を始めたきっかけを教えてください。何か和楽器をやりたいという思いがあったのでしょうか?
実は最初から「三味線との深い関わり」があったわけではないんです。子供の頃から津軽三味線の特徴的な音を聴いて育った……というような特別なエピソードもなくて。 ただ、「やっぱり日本人だから、歳をとってもできる楽器をそのうちやりたいな」という思いはずっと持っていました。
どのような経緯で三味線に辿り着いたのですか?
もともと、家でロバート・ジョンソンなどのブルースをアコースティックギターでコピーして弾いていたんです。でも、ギターには限界があるなと感じて。ブルースも良い音楽だけれど、英語がよくわからないまま歌っていてもどうなのかなと(笑)。 それなら日本人として、日本でしっかり学べる日本の楽器をやったほうがいいんじゃないかと思ったんです。
ブルースなどのルーツミュージックから、ご自身のルーツである日本の楽器へと辿り着いたのですね。大久保教室を選んだきっかけは何だったのでしょうか?
当時あった『ケイコとマナブ』という雑誌を見て決めました。その頃はまだネットがない時代ですからね。いくつか候補があって比較したわけではなくて、載っていた三味線教室がここだけだったんです(笑)。
好きな津軽三味線の奏者はいらっしゃいますか?
やはり、家元の澤田勝秋先生です。理由はもう「ない」というか(理屈ではないというか)、とにかく全部が揃っているんですよね。上手い人というか……なんだろうな。
ブルースで言うところの「グルーヴ感」のようなものでしょうか?
そうそう、まさに。歌も含めて、すべてにおいてそれを感じます。
直接、家元と一緒に演奏する機会などはありましたか?
すごく昔に、NHKの番組へ大勢で出たことがありましたね。上妻(宏光)さんと木乃下(真市)さんがいらして、センターに家元がいて、そのバックを澤田流の集団で囲んで演奏したんです。
兄弟弟子との活動、長く続けるための「コツ」
普段はどのような演奏活動をされているのでしょうか?
兄弟弟子の邦風くんと組んでいる「楽風(がくふう)」というユニットで活動しています。
これまでのご自身の演奏で、特に記憶に残っている印象的なステージはありますか?
自分の演奏だと、去年やった「劇団の方々のお芝居に合わせて弾く」という舞台ですね。邦風くんに「一緒にやらないか」という感じでお話が来て。
役割としては効果音やBGMのような感じで、風の音とか、人の歩く音などを三味線で表現するんです。昔からあるような伝統的な感じの演奏ではなくて。お芝居だから場面転換の尺(時間)が決まっているので、役者さんの動きや時間に合わせて「このシーンのここに、この音楽を合わせる」といった感じでしたね。
お芝居の尺や動きに合わせるとなると、事前の練習もかなり時間がかかったのではないでしょうか?
そうですね。劇団の皆さんの稽古にずっと付き合って作っていきました。
これまで長く津軽三味線を続けられてきたモチベーションは何でしょうか?
もうやっぱり「家元みたいにかっこよく弾きたいな」と。ただそれだけですね。
上達するためのコツなどがあれば教えていただけますか?
それが一番難しいですよね。上達のスピードや仕方は人それぞれですから。でも、多分「長く続けること」ですよね。地道にコツコツと。
続けていく中で、「ワンステージ上がったな」とご自身で実感する瞬間はあるのでしょうか?
どうだろうな。多分、自分自身ではその変化って目に見えては分からないんですよね。まあ、分かる人もいるんでしょうけど。音の変化が感じられればそれがワンステージ上がった、ということなのではないかと思います。
大人の趣味は「追求する」のが面白い。一人ひとりに合わせたお稽古
現在、先生の教室に通われている生徒さんについて教えてください。長く続けられている方の傾向などはありますか?
自分の感覚でいくと、結果的に残ったのかもしれないけれど、「マニアックな人」が多いですね。やっぱり「昨日の自分よりもうまくなりたい」というように、追求するタイプの人が残っている感じですね。最初は若い人や学生さんもいれば、年配の方もいらっしゃってバラバラなんですけどね。
練習時間の確保や楽器の購入など、様々なハードルもあるかと思いますが、最終的に長く続けていく方に共通点はあるのでしょうか?
やっぱり、年齢や性別を問わず「追求するのが好きな人」じゃないですかね。 ただ、ライフステージによる傾向は少しあるかもしれません。例えば若い世代の方だと、お仕事やプライベートなど他に楽しいことや優先したいライフイベントがたくさんある時期ですよね。なので、どうしても三味線だけに時間を割くのが難しいタイミングもあると思います。
一方で、私と同世代の40代以上など、ある一定の年齢になると自分の時間を自分のために使えるようになって、三味線の世界に「グーッ」と深く入っていきやすいみたいですね。今長く続いている生徒さんもそういう方が多いです。もちろん、女性の方でも長く熱心に続けられていた方はたくさんいらっしゃったんですが、コロナ禍で皆さんの生活スタイルが一度リセットされてしまった部分もありますからね。
今はまた、それぞれのペースで三味線の奥深さを楽しんでくれている印象です。
津軽三味線はすぐに上手くなるものではなく、習得に時間がかかる楽器なので、途中で挫折したくなるお気持ちも分かりますよね。
そうですね。なかなか1曲が弾けるようにならないと、「つまらないな」と感じてしまうこともあるでしょうからね。
これまでたくさんの生徒さんを教えてこられたと思いますが、指導される上での方針などはありますか?
やっぱり「その人に合わせる」ということですね。大人の生徒さんが多いので、当然「徹底的に上手くなりたい」と追求する人もいれば、「趣味程度で楽しく演奏できたらいいな」という人もいます。そういった一人ひとりのニーズに合わせて教えています。
生徒さんのニーズに合わせて、取り組む曲の順番なども変えたりするのでしょうか?
スタートからある程度のところまでは、皆さん一緒ですね。基本的には教室のやり方に沿って、基本の順番で進めています。そして、ある程度のレベルまでいったら、「これからどうしますか?」と本人の希望を聞いて進めていく感じですね。
突き詰めると音楽は同じ。ブルース視点で語る津軽三味線の「即興」
学生時代に何か演奏されていた楽器はありましたか?
いや、特に何もやっていません。
では、ブルースなどのギターを始められたのも社会人になってからでしょうか?
はい、社会人になってからですね。Eric Claptonの『From The Cradle』が出た時です。 洋楽で一番最初に聴き始めたのが、Stingの『Englishman in New York』でした。あれが私の洋楽のスタートなんですよ。後ろで鳴っているサックスの音とか、そういうところから色々聴いていって、クラプトンに出会って、ブルースにどんどんのめり込んでいきました。
ブルースの活動では、具体的にどのような楽器を演奏されていたのでしょうか?
その時は歌とブルースハープ(ハーモニカ)ですね。ギターもボトルネック奏法でやったりはしましたが、まぁ最近はたまにセッションでやるぐらいですね。
ギターの方が先だったのですね。
ギターが最初だったんですが、コードを覚えられなくて挫折しまして(笑)。それで、「ハーモニカってこんなにかっこいい楽器があるんだ」と思ったんです。20代の頃に1、2年ほど家で独学でやっていました。その後三味線を始めてからは、ブルースは聴く一方でほとんど演奏していなかったですね。たまにハーモニカを本当にちょこっと軽く吹くぐらいで。
ギターから三味線に持ち替えた時、何か違いや戸惑いなどはありましたか?
始めた時にはそこまで思わなかったんですが、やっぱり全然違いますね。同じ弦楽器かと思って始めたけれど、全く別物だったというのはあります。これも不思議なんですけど、途中で「三味線はよりリズム寄りで、ギターはメロディー寄りだな」と思っていた時期があったんです。でも最近はまた、「両方ともメロディーであり、リズムなんだな」と思うようになって。だから結局、突き詰めていくと同じになるんじゃないかなって感じています。
ブルースも津軽三味線も「即興性」が特徴的ですが、演奏中の感覚などに共通点はありますか?
即興といっても、「完全に自由な即興」であって「完全に自由ではない」というところが共通していますね。津軽じょんがら節も、即興ってみんな言うけれど、「じょんがら節という枠組みの中での即興」なのでベースとなる絶対的なリズムがあって、それは絶対に崩せない。その中でどう遊ぶか、というのは全くブルースも一緒です。
演奏していてやっぱりその瞬間的に出す「音色の圧」というか、「いい音だな」と思わせる部分が同じですね。「今、すごくいいフレーズ弾いちゃったかも!」みたいな(笑)。 ただ、心は絶対的に冷静でいなきゃいけない。リズムにちゃんと乗っていないと、曲じゃなくなっちゃいますからね。そこはジャズなど、すべての楽器に共通することだと思います。
ブルースなどのバンド経験があるからこそ、他の三味線奏者とは違う独自の視点などはありますか?
これはブルースに限らず、バンドをやっている人ならみんな分かると思うんですが、他の楽器の音をちゃんと聴かなきゃいけないんですよね。セッションなら、ベースやドラムなどのリズム隊がちゃんと基盤を作っているから、それに合わせて上物(メロディー)部隊は乗っかっていく。
三味線もこれと全く同じで、絶対に「歌」を聴かなきゃいけないんです。ブルースも民謡も、メインは歌なんですよね。だから絶対的に歌をサポートしなきゃいけない。歌を聴いて、太鼓の音を聴いて、それにちゃんと伴奏を合わせつつ、リードしていく。一人で弾く時以外は、すべての楽器に共通することだと思いますね。
ちなみに、ブルースの中でよく聴くヘビロテの曲などはありますか?
もう全部ヘビロテかな。特に「これ!」と一つに絞るのは難しいんだよなぁ。
では、もしブルースのバンドに、ハーモニカではなく「津軽三味線」で参加するとしたら、どんな曲をやってみたいですか?
ギターの「ボトルネック」で入るような曲ですね。それこそElmore Jamesの『Dust My Broom』とか、なんか三味線でも演奏しやすそうですよね。そういえば過去に一度だけ、ブルースと津軽三味線で一緒にライブをやったこともありましたよ。
自由に、楽しく、普通の人に開かれた場所。大久保教室の魅力
最後に、大久保教室の「おすすめポイント」を教えていただけますか?
おすすめポイントは、やっぱり「自由に練習できる」っていうところじゃないですかね。みんな楽しくやっていますよ。先生が厳しくないですから。だって、ジャズをやっちゃうぐらい柔軟な師匠ですからね。
伝統芸能のお稽古というと、厳しいイメージを持たれがちですよね。
そうですね。「ああしろ、こうしろ」と強く言われることはないです。本当に自分がいる教室だから言うわけじゃないけれど、最初に三味線を始めるんだったら、ここの教室は本当にいいと思いますよ。 私も長くやってきて、色々な付き合いがあるから分かるんですが……面倒くさいルールの教室もあったり、色々な場面でお金がかかったりするところっていっぱいあるんです。いまだに昭和的な、すっげー厳しい先生だったりとか(笑)。
レッスン代以外のノルマなどもなく、フラットな環境なんですね。
ええ、だからここの教室はそういう意味ですごく入りやすいし、怖い人もいないし、余計なお金もかからないし。新宿・大久保という都心で駅からも近いですからね。
普段はどのような生徒さんが通われているのでしょうか?遠方から来られる方もいますか?
生徒さんは、本当に「普通の人」ですよ。遠方よりも、近くに住んでいる方が多いですね。特別な特徴があるというよりは、普通の人が普通に長く続けて、楽しんでくれているっていうのが一番ですね。長い人だと20年くらい続けている方もいらっしゃいます。
昔、私が金曜日の教室に来ていた頃からの長い付き合いになる仲間たちもいますし、本当にフラットで居心地のいい場所だと思います。
津軽三味線を始めてみませんか?
まずは体験レッスンで、教室の雰囲気をお確かめください。無理な勧誘は一切ありません。
※無理な入会勧誘や楽器の販売などは一切ございません。